
こんにちは、畳マン六代目です。
創業170年以上の歴史を持つ老舗「青畳工房」の六代目として、畳製作一級技能士の資格を活かし、これまで数多くの和室トラブルを解決してまいりました。
そんな私が、お見積り先で出会ったのが“きたろう畳”という、張り替えが不可能な厄介すぎる畳(?)でした。
外見は畳風でも実際は全く別物。その詳細と対処法を、畳専門家の視点からご紹介します。
きたろう畳とは? 正体は“上敷き”のようで上敷きじゃない畳風床材
「これって上敷き…?」違和感の正体
先日お伺いしたお宅で目にしたのは、一見すると普通の畳か上敷きのよう。
でもよく見ると、畳縁が縫い付けられておらず、さらに畳表が床に直接貼り付けられているではありませんか。
Facebookの畳屋仲間に確認したところ、これが通称“きたろう畳”というものだと分かりました。

かつて一部ハウスメーカーが採用
きたろう畳は、一部のハウスメーカーが採用していた工法で、工期短縮やコスト削減を目的に使われたのではないかと推測されます。
今ではほとんど見られませんが、過去に建てられた住宅では、まれにこの“張り替え不可能”な畳風床材が残っているようです。
きたろう畳が抱える3つの大問題
1. 張り替えが不可能
通常の畳なら、汚れや傷みが出てきたときには表替え(畳表の交換)や裏返しが可能です。
ですが、きたろう畳は畳表が床に直接ノリや両面テープで貼り付けられているため、簡単に剥がすことができません。
- 全面撤去が必要
しかも剥がす際に糊や粘着剤の残骸が床にこびりつき、大掛かりな工事が必要になります。結果として新調するにしても、通常の畳より手間と費用がかかるのが最大のネックです。

2. お客様の負担が大きい
「施工時は安く済む」というメリットを前面に打ち出していたのかもしれませんが、メンテナンス面で非常に扱いづらいのが現実。
長い目で見るとコストが高くつくことは否定できません。実際、
- 「畳替えをお願いしたら断られた」
- 「ほかの畳屋さんにどうにもならないと言われた」
という声も少なくありません。お客様自身が損をしてしまう工法といっても過言ではありません。
3. 家具が固定されている場合はさらに厄介
今回訪問したお宅では、きたろう畳の上に作り付けの家具が設置されており、畳表を剥がすのが不可能な部分がありました。
家具を一度解体したり、部屋の構造を大幅に変更しない限り、畳をすべて撤去することが難しい状態に。
- 一部だけ撤去も困難
- 家具の下はそのまま残すしかない
このように、施工の自由度が大きく制限され、費用と作業時間がかさむ要因になってしまうのです。
きたろう畳への正しい対処方法
1. 床に貼り付けられた畳表を全除去
残念ながら通常の畳替えでは対応不可能なので、糊や両面テープを含めて畳表を徹底的に取り除くしかありません。
ここが大きな手間とコストを生むポイントです。
2. 特注の極薄畳を製作して上から敷く
既存の床をきれいにしたあと、薄さを調整した特注畳を新しく製作して納める方法が一般的です。
家具や建具に合わせて厚みを調整しないと、引き戸が開かなくなったり、段差が生じることもあるので注意が必要。
- 作り付け家具がある場合
家具の下までどうしてもアクセスできないなら、家具の下は現状維持で、それ以外の部分だけ極薄畳を入れるといった対応をとるケースもあります。
ハウスメーカーの工法に潜む落とし穴
コストと工期優先の結果?
きたろう畳が施工された背景には、おそらく工期短縮やコスト削減といった事情があったのではないかと考えられます。
しかし、その代償として、メンテナンス性が著しく下がり、長期的に見れば住む人が負担を負うことに…。
畳は本来、表替えや裏返しなどで何十年も使い続けられる床材です。
にもかかわらず、きたろう畳の場合はそれを台無しにしてしまうため、「正直、手抜き工事と言わざるを得ない」と感じることもあります。
今回のケースはどうなった? きたろう畳の結末
結局は“別の和室”だけ表替え
今回のお客様宅では、きたろう畳が敷かれた部屋は家具が固定されており、全面撤去がほぼ不可能な状態。
そこで、お客様と相談の結果、「とりあえず別の普通の畳を使った和室のみ表替え」を行うことになりました。
- 普通の畳は問題なく表替えOK
仕上がりも美しく、やっぱり新しい畳は気持ちいい!お客様にも大変喜んでいただきました。 - きたろう畳が残る部屋は、今後どうするか検討継続…