2026年8月20日時点
2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
地震のあと、八代のい草産地へ足を運びました。そこで聞いたのは、建物や織機が壊れたという話だけではありません。用水路や井戸の被害で次の苗を育てる水がないこと。機械や作業場を直しても、その費用を取り戻せるか分からないこと。生産をやめると決めた方がいること。畳店として、聞いたままにしてはいけない話ばかりでした。
公表資料で確かめられたことと、私が現地や問屋から直接聞いたことを分けながら、8月20日までの状況をお伝えします。
八代で被害を受けたのは、田んぼだけではありません
気象庁によると、7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、最大震度7を観測しました。
熊本県が8月13日に公表した資料には、八代市の「いぐさ製織作業場の倒壊」が写真付きで載っています。農業用機械・施設の被害は県全体で約2,000件、約103億8,000万円。い草専用機械も含まれますが、この数字はトラクターやハウスなどを合わせた農業全体の集計です。い草関係だけの被害件数や金額は、まだ公表されていません。
農林水産省が地理的表示(GI)に登録する「くまもと県産い草」の生産地は、八代市、八代郡氷川町、宇城市です。地震前の令和7年産統計では、熊本県の作付面積は242ヘクタール、収穫量は3,630トン、畳表の生産量は103万枚でした。それだけ大きな産地が被災しています。
収穫できても、畳表に織れない
畳の表面に使う畳表は、刈り取ったい草をそのまま敷くものではありません。農林水産省が紹介する工程を大まかに並べると、次のようになります。
- 苗を育て、田んぼに植える
- 6月下旬から7月中旬ごろに刈り取る
- 泥染めをして乾燥させる
- 長さや状態を見て選別する
- 織機で畳表に織り上げる
- 傷などを確認し、検査を経て出荷する

7月31日のテレビ朝日の報道では、八代市の一軒の農家が、い草の収穫と乾燥を終え、地震当日から織り始める予定だったと伝えられています。しかし、作業場の被害で織機を使えなくなりました。
8月上旬、八代で聞いたこと
私が会った生産者さんの中にも、地震の直前に刈ったい草がありながら、作業場や織機の被害で畳表にできない方がいました。
畳店が仕入れるのは、原料のい草ではなく、織り上がった畳表です。収穫できたことと、畳表として出荷できることは同じではありません。
来年のい草を育てる水がない
8月は、今年のい草を織る一方で、来年に向けた苗づくりが始まる時期です。畑の苗床から苗を掘り出して水田苗床へ移し、11月下旬ごろには本田へ植え付けます。
現地で聞いた水の問題
用水路が壊れたり、井戸水が出なくなったりして、8月の苗の準備ができないという話を直接聞きました。片付けが終われば再開できる、という問題ではありません。苗を育てる水そのものが足りないのです。
熊本県は8月3日、い草を含む品目別の対策チームを設けました。8月13日の県資料では、農業用地下水など56点を調べ、塩分濃度が高かった9点について代わりの水を調整中としています。被災した幹線水路では試験通水が行われ、ポンプの設置も始まっています。
復旧へ向けた動きは始まっています。ただ、苗づくりを再開できた農家が何軒あるのか、作業場や織機がどこまで直ったのかは、まだ公表資料からは分かりません。
直す費用をかけても、取り戻せない
産地は地震の前から、生産者の高齢化と生産コストの上昇に悩んでいました。令和7年産のい草作付面積は、前年より24%減っています。
生産者さんから聞いたこと
壊れた機械の修理や買い替え、作業場の補修や建て直しには大きなお金がかかります。高齢の生産者さんからは、「これから続けても、その費用を取り戻せない」という話を聞きました。
水の問題、復旧費用、年齢を考え、今回の被災を機にい草の生産をやめると話す方もいました。八代のすべての生産者が同じ判断をしたわけではありません。それでも、実際に現地で聞いた重い話です。
避難所へ畳を運んだ2日間
「5日で5000枚の約束。」は、全国の畳店が連携し、災害時に新しい畳を無償で避難所へ届ける活動です。今回の地震でも活動が始まりました。
私も2日間、避難所へ畳を届ける作業を手伝いました。活動で用意された畳を運び、必要な場所へ届ける。その作業をしてきました。
畳表は出ている。ただ、値段は大きく上がっている
「国産畳表がもう手に入らない」という状態ではありません。市場への出品は、少ないながらも続いています。
8月、問屋から聞いた相場
とある問屋さんは、現在の値上がりを「大暴騰」と表現しました。それほど大きく価格が上がっている、という話です。
畳表の価格は、生産者、品種、い草の長さ、選別、織り、等級で変わります。すべての畳表が同じ幅で値上がりしたという公表統計は、まだ確認できていません。品物が市場にあることと、これまでと同じ値段で仕入れられることは別です。
これは、畳替えを急いでいただくための話ではありません。今後の供給や価格を決めつけず、産地と問屋から聞いた状況をその都度お伝えします。
国産い草は、産地名だけでは選べません
同じ八代のい草でも、農家さんが違えば育て方が違います。同じ農家さんでも、田んぼの土、水、日当たりによって育ちは変わります。収穫したい草は長さや状態で選別され、使う部分と織り方によって畳表のランクが分かれます。
青畳工房が産地へ足を運ぶのは、「熊本県産」という表示だけでは分からないことがあるからです。誰が、どの田んぼで育て、どう選別し、織った畳表なのか。生産者さんの話を聞き、畳表を自分の目で見て選んできました。
これからも国産い草を使い、産地で起きていることを見て、聞いたことをお伝えします。新しい公表情報が出たときは、この記事も更新します。


