2026年8月12日時点
2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
今回の地震は、国産畳表を扱う私たち畳店にとっても他人事ではありません。熊本県八代地域は、国産い草と畳表を支える大切な産地です。い草を育てる田んぼだけでなく、収穫後のい草を保管し、畳表へ織る作業場や織機も、産地の仕事に欠かせません。
この記事では、2026年8月12日までに公表された情報と、青畳工房が産地の生産者さんから聞いている話を分けてお伝えします。被害の全体像はまだ確認の途中であり、今後の生産量や価格を予測するものではありません。
八代はい草と畳表の主産地
気象庁によると、2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、最大震度7を観測しました。
熊本県が8月11日に公表した資料には、八代市の「いぐさ製織作業場の倒壊」が被害例として掲載され、農業用機械・施設の被害例として、い草専用機械も挙げられています。資料にある件数と被害額は県内の農業用機械・施設全体の集計であり、い草関係だけの数字ではありません。
農林水産省は、地理的表示(GI)に登録された「くまもと県産い草」の生産地として、八代市、八代郡氷川町、宇城市を挙げています。地震前の令和7年産統計では、熊本県のい草作付面積は242ヘクタール、収穫量は3,630トン、畳表生産量は103万枚でした。これは今回の被害量ではなく、地震前の産地の規模を知るための数字です。
い草農家や製織設備に限った被害の総数は、2026年8月12日時点で公的にまとまった発表を確認できていません。
い草の収穫から畳表まで
畳の表面に使う「畳表」は、田んぼから刈り取ったい草をそのまま敷くものではありません。農林水産省が紹介するい草農家の仕事は、おおまかに次の工程で続きます。
- 苗を育て、田んぼに植える
- い草を育て、6月下旬から7月中旬ごろに刈り取る
- 泥染めをして乾燥させる
- 長さや状態を見て選別する
- 織機で畳表へ織り上げる
- 傷などを確認し、検査を経て出荷する

刈り取ったい草は農産物ですが、畳店が仕入れるのは、それを織り上げた畳表です。収穫と乾燥まで済んでいても、作業場へ入れない、織機を動かせないという状態では、畳表として仕上げられません。
7月31日のテレビ朝日の報道では、八代市の一軒のい草農家で、収穫と乾燥を終え、地震当日から畳表を織り始める予定だったものの、作業場の被害により織機を使えない状況が伝えられました。これは一軒の事例で、産地全体の被害を示すものではありません。ただ、収穫できたことと、畳表として出荷できることは同じではないと分かる事例です。
六代目・古賀隆夫が現地で聞いたこと
私が現地で直接聞いた範囲では、地震の直前に刈り取ったばかりのい草があり、作業場や織機の被害によって、現在は畳表へ織り上げられない生産者さんがいます。
次年度の苗づくりへの影響
い草農家の仕事は、今年収穫したい草を織る作業と並行して、次年度に向けた苗づくりへ進みます。
農林水産省の資料では、8月に畑の苗床で育てた苗を掘り出し、水田苗床へ植えて育てるとされています。その苗を11月ごろに掘り出して株分けや根切りを行い、11月下旬から本田へ植え付けます。8月は、次の年の収穫につながる準備が始まる時期でもあります。
六代目・古賀隆夫が現地で聞いたこと
私が現地で直接聞いた範囲では、用水路が壊れたり、井戸水が出なくなったりしたため、8月に行う次年度の苗の準備ができない生産者さんがいます。片付けの問題だけではなく、苗づくりに必要な水を確保できないことが支障になっています。
これによって次年度の生産量がどの程度変わるかは、現時点では分かりません。復旧の進み方や苗の状態によって変わるため、「来年はい草が不足する」と断定できる状況ではありません。
生産者の高齢化と生産縮小
今回の地震だけで、い草産地の問題が始まったわけではありません。農林水産省によると、令和7年産のい草作付面積は前年より24%減少しました。その理由として、高齢化による労力不足や、生産コストの高騰に伴う作付中止などが挙げられています。
六代目・古賀隆夫が現地で聞いたこと
また、生産者さんには高齢の方も多く、壊れた機械の修理や買い替え、建物の補修や建て直しには大きな費用がかかります。これから生産を続けても、その費用を取り戻すのは難しいという話を、現地で直接聞きました。
水の問題や復旧費用、年齢などを考え、今回の被災を機に、い草の生産をやめると話す方もいました。これは八代の生産者全体を示すものではなく、六代目・古賀隆夫が現地で直接聞いた範囲の話です。現時点で、国産い草の供給量や価格への影響を断定できる状況でもありません。
産地全体への影響
一軒の農家が生産をやめたからといって、国産畳表がすぐに不足するわけではありません。しかし、生産者が少しずつ減れば、育てられるい草の量だけでなく、畳表を織る人、産地に蓄積された技術、専用機械を維持する仕組みにも影響します。
今回の被災が産地の縮小をどこまで進めるのかは、まだ判断できません。ただ、作業場や織機の被害が、もともとあった高齢化や生産基盤の課題に重なり、産地がさらに縮小する一因になる可能性はあります。
畳店にとっても他人事ではない
私たち畳店は、生産者さんが育て、乾燥させ、選別し、織り上げてくださった畳表がなければ仕事ができません。畳店がお客様へ国産畳表を届けられるのは、産地でい草づくりを続ける方がいるからです。
青畳工房では中国産い草を使わず、国産い草を扱っています。ただ「国産」と書いてあれば同じだとは考えていません。同じ産地でも、農家さんや田んぼの土、水、日当たりによってい草の育ち方は変わり、収穫後の選別や織りによって畳表のランクも変わります。そのため、産地へ足を運び、生産者さんから話を聞き、畳表そのものを見て選んできました。
今回の地震で起きていることを伝えるのも、い草がどこで、どのような仕事を経て畳表になるのかを知っていただくことが、畳店の役割の一つだと考えるからです。
青畳工房が続けていくこと
この記事は、畳替えを急いでいただくために書いたものではありません。今後の価格や供給を予測して、購入を勧める意図もありません。
青畳工房として現時点で続けることは、国産い草を使うこと、産地の状況を見ること、生産者さんの話を聞くこと、そして国産畳表が届くまでの背景をお客様へ伝えることです。
私たち畳店は、生産者さんが育て、織り上げてくださった畳表がなければ仕事ができません。これからも国産い草を使うだけではなく、誰がどこで作っているのか、その背景までお伝えしていきます。
公的な被害情報や、産地で確認できた内容に更新があった場合は、確認できた範囲でこの記事へ追記します。

